おばあちゃんの小さな本屋さん |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

「小さなお店」がどんどん消えつつある。
「パパママ・ストアなんてもういらない、必要ないんだ、
世の中はもっと合理的になるべきだ!」
こんな提案をかつて、
バブル期のテレビ番組がしていたのを覚えてる。
司会は当時、アメリカで事業を展開していたテレビ界のカリスマ。

実際に「合理的な大きいお店」が世の中で目立っている現在、
世の中はどうなったのか。
なんとも味気なく、どうしようもなく物足りなく、
画一化していく街並を そら恐ろしいと私なんぞは思うのだった。

だから、
『新宿駅最後の小さなお店ベルク』=通称「ベルク本」が発売されたら、
これは1冊、小さな町の本屋さんで買わなければ、と
近所の商店街の小さな本屋さんに取り寄せをお願いしてみた。
「でも、お待たせすると思いますよ」
取次いでくださったのは店主とおぼしき、
いつも店番していらっしゃる おばあちゃん。

おばあちゃんの予言は正に。
はいな~待ったがな~。
ベルク本の全国発売日から3週間余りが過ぎた日曜日、
ようやく「入荷しました」の電話をいただいたので、
すぐさま受け取りに行ってきた。
ツカッケで出かけられるのが「近所」のいいところ。

“小さな本屋さん”に行くと、
店では二人の女性が店番していらした。
いつものおばあちゃんもその一人。
「あの~さっき お電話をいただいた者ですが…」
レジ前で口を開くや、すかさず、
「いらっしゃい! あのね!
 あなたね! このお店に行ったことあるの?」とおばあちゃん。
「あ、ハイ!
 行ったことありますよ」
「コーヒーは美味しいの?」
「はい、コーヒー、美味しいです! しかも安いし!」
「そうなの! 新宿駅のどこにあるのかしら…。
 この本、ちょっと見たんだけど面白そうね」
おばあちゃん、ベルク本を開けてくれたんだ、嬉しいっ。
「コーヒーだけじゃなくって食べ物もおいしいんですよ。
 でもね、このお店、ちょっと大変なんです。
 本にも書いてあるんですけど、
 大家の駅ビルさんから出て行けって言われてて…
 この店は小さいけど人気があって。なのに、
 オシャレじゃないとかなんとか、よく分からない理由で…」
「え? そうなの? ダメよ! 小さいお店が大事なのよ!
 大きいお店は もういいのよ!
 本屋も今ね、大変なのよ。ホントに厳しいの。
 どんどん小さいお店が閉めていってね…。うちも大変なのよ」
おばあちゃんに怒りが見えた。私がうんうんと頷いていると、
もうひとりの女性(娘さん?)も、
「この本のお店のこと、ラジオでも言ってましたよ。
 店番をしながらだったので、しっかり聴けなかったけど」
仲間が増えた! とばかりに私は嬉々として、
「そーなんです! ラジオでも放送してたし、
 今ね、すごく話題になってるんですよ。
 この雑誌にも記事が出てて…ほら、これこれ!」
お店に並んでいた『週刊朝日』と『週刊現代』を指差すと、
「あらっ。後で読むわ!
 私ね、コーヒーが大好きなの!新宿駅は近いから よく行くのよ。
 でも知らなかったわ、こんなお店があるなんて。
 いいことを教えてもらえたわ」
「いえいえ、こちらこそ~。私ね、この本は
 ぜったいに近所の小さな本屋さんで買おうと決めてたんです。
 このお店で注文してよかったです!」
「あら。そうだったの! ありがとね。
 本当にありがとね!」

ベルク本を買って帰るだけのつもりが、
思いもよらない立ち話。
もちろん、いたって嫌な気分じゃなく、
1冊の本を通じて会話が広がるのが楽しかった。

また来ます、とお店を後にする時、
おばあちゃんが名残惜しそうに言ってくださった。
「うちのお客さんが言ってるの。
 コンビニもいいけど、会話がないって。
 今はね、みんな決まったことしか言わないでしょう?」
そうして
「ずっと、うちに来てくださってたのね、
 気付かなくてごめんなさいね」
と「二つ折れの財布」の見本のように、
深々とおじぎをしてくださったから、
もう、もう、もったいない気持ちでいっぱいになってしまった。
なぜなら私は年に一度か、二度ぐらいしか
“おばあちゃんの本屋さん”には行ってなかったので。

よかったら、ベルク本をお店で売ってみてください!
なんて偉そうなことを口走ってごめんなさい、
でも、あれは本音なんよ、おばあちゃん。
けど、無理強いじゃないからね…
でも売ってくれたら嬉しいなぁと、とユラユラ揺れる気持ち、
こんな想いは「パパママ・ストア」でなければ有り得ない。

交わす想いに合理化なんて、あってたまるものか。



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新宿駅最後の小さなお店ベルク/井野朋也

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